追いかけないで旦那様 〜奥様はお仕事中だよ!〜

追いかけないで旦那様 〜奥様はお仕事中だよ!〜

last updateTerakhir Diperbarui : 2026-08-12
Oleh:  八街ヒサシBaru saja diperbarui
Bahasa: Japanese
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日立みやびは典型的な虐げられ妻。 夫の初恋が帰ってくることを知った彼女は自ら身を引くために偽装死して”本業”に復帰する。 しかし夫は彼女への愛に目覚めて彼女を追いかけ始めて…… 竿強な妻と最弱な夫による追いかけっこが、今、始まる

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普通ではない妻
日立みやびは恋愛小説でよくみる、いわゆる”虐げられた妻”である。みやびの嫁ぎ先である日立家は由緒正しい大財閥であり、義母はそこに入り込んだ”庶民”である嫁を嫌い抜いている。気まぐれに嫁を呼びつけて雑用や宴の下働きを押し付けるなんて日常茶飯事、口を開けば嫌味ばかり、時には”家訓”と称して体罰を与えることもある。夫――日立祐市(ひたちゆういち)は祖母がどこかから拾ってきた”庶民の嫁”であるみやびを恥ずかしく思っている。当然結婚式などは挙げていないし、世間に結婚を公表することもない。「俺には初恋の女がいる」と言って憚らず、みやびのことを都合の良い家政婦であるかのように扱う、まさにお手本通りすぎるほどの”恋愛小説でよく見るクソ夫”だ。だから物語は――恋愛小説でよく見るあのシーンから始まる。金海楼2階のVIP個室では、祐市とその取り巻きが集まって飲んでいる最中であった。彼らは祐市に妻がいることを知ってはいたが、夫である祐市がこれを虐げているのだから、誰もみやびのことなど尊重しない。取り巻き筆頭である牛久家の次男、牛久道雄が一際大きな声をあげた。「そういえば聞きましたよ、霞ヶ浦家のお嬢様が戻ってくるって! そしたらあの嫁はどうするんです、祐市さん!」道雄がことさらに声を張り上げたのは、扉の外にいるであろうみやびに聞かせるためである。彼は「祐市が酔っ払っているから迎えにきてほしい」と嘘の電話をかけて、みやびをここに誘き寄せていた。そんなことを知らない祐市は、みやびとの結婚をはっきりと否定した。「離婚するに決まっているだろう、俺が愛して妻にと願っているのは霞ヶ浦史緒里ただ一人、あの女にくれてやる愛などひとかけらもない」みやびはその冷たい一言を、扉の向こうで聞いていた。普通の恋愛小説ならば、唇をそっと噛むとか、爪が肉に食い込むほど拳を握るべきシーンだ。だが、みやびは”普通”ではない。そっとドアを押し開けて細い隙間から室内を見渡したみやびは、居並ぶ御曹司の中でも飛び抜けて見目麗しい自分の夫の姿を無表情で眺めていた。「警備対象の無事を目視で確認」彼女が話しかけている先は、耳にぶら下がったイヤリング型の通信機。通信機の向こうから若い女の声で言葉が返される。「こっちもスキャン完了、室内に危険はないわ、だけど下から三人、来る!」「迎撃する。警備対
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期待通りのクズ男 祐市
日立みやびは夫との結婚記念日を祝うため、彼の好物を食卓に並べて帰宅を待っていた。しかし彼は深夜になっても帰ってはこなかった。エビもチキンも湯気一つ立たないほど冷めて硬くなり、記念日だからと奮発したケーキはクリームが溶けて崩れかけている。みやびは虚しい気持ちで誰も手をつける人のいない食卓を眺めていた。やがて深夜も過ぎた頃、夫は初恋を大事そうに抱えて帰ってきた。恋愛小説に出てくる”普通の”妻ならば大いにショックを受ける定番シーンだが、何しろみやびは普通ではない。夫の車が帰ってくると同時に玄関に駆けつけ、眠っている史緒里を抱き上げた彼のために扉を開けてやった。「おおおおおお、おかえりなさい」声が震えたのは喜びのせいだったが、夫はこれをヤキモチによる怒りだと思ったらしい。「俺が客を連れてくることに、何か文句が?」「なななななな、ないです、これっぽっちもないです、ヒャッホイ!」「ふん」この夫――日立祐市は見事にご期待通りの”恋愛小説によく出てくるクソ夫”そのものである。妻のことは身分も才もない女だと見下して家政婦扱い。祖母に取り入って無理やり自分と結婚した計算高い女だと決めつけて罵る。自分の友人たちが妻を軽んじても庇うことすらせず、むしろ加担する。恋愛小説で見かけるモラハラ三連コンボをフルコンプ、それが祐市という男。彼は”初恋”を大事そうに抱えたまま、不機嫌そうな声をみやびに向けた。「彼女は帰国したばかりでいくところがない。しばらく家に泊めるからな」みやび大歓喜。「きた、きた、キタァァぁ! きましたよ!」「何か文句が?」「いいえ、何も文句などありません! すでに用意は整ってございます、どうぞ主寝室へっ!」祐市、クズだが常識がないわけじゃない。「なんで主寝室? 俺はどこで寝ろと?」「そんなの、ご一緒に寝ればよろしいじゃないですかぁ!」「彼女とは君が思うような関係じゃ……」「わかってます、わかってますとも! 清らかな関係ってやつですよね、だけどっ! おそらく海外で不治の病を得て余命わずかとか、うつ病で常時監視していないと何をするかわからない状態とか、そういう設定があるんでしょ、床を共にしなくても、少なくとも同じ部屋で寝るべきじゃありません?」「ちょっと落ち着け、お前、今日はめちゃくちゃ喋るな?」祐市は今まで、みやびはおと
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それぞれの思惑
史緒里は手土産を持って、祐市の実家へと訪問した。「おばさま、お久しぶりですぅー」祐市の母、美鶴と史緒里はよく見知った仲だ。祐市と恋人だった頃、史緒里はよくこの家に遊びにきていたし、有名な霞ヶ浦家のお嬢様だということもあって、美鶴は史緒里のことを可愛がっていた。「まあまあ、史緒里ちゃん、本当に久しぶりねえ」「これ、お土産です」「そんなの、気にしなくていいのに」美鶴は史緒里を茶室に通し、歓迎のための茶を自らたてて出した。「海外に行っていたんですって?」「そのことなんですけど、おばさま、理由はなんて聞いています?」「自分探しと語学の研鑽のためってきいているけど?」「実はそれ、嘘なんですぅ」史緒里はよよと泣き崩れる。「実は2年前、胃がんが見つかって、幸いに初期段階ではあったんですけどぉ、国内では治療が難しいってことで海外で治療を受けていたんですぅ」「あらあら、まあまあ、大変だったのねえ」史緒里は抗がん剤の副作用がいかに苦しかったか、知る人もいない海外の病院で弱ってゆく病気の自分がいかに哀れだったかを延々と語って美鶴の同情を散々に引いた。「そんな日々を耐えられたのは、ただ、もう一度だけ祐市さんに会いたいという、愛のためだったんですぅ」「ううっ、なんて美しい愛なのかしら」美鶴がハンカチで目を抑えている隙に史緒里はペロリと舌を出す。これみんな嘘だから。「なのに、ようやく体が治って帰ってきたら、祐市さんには妻がいる、この絶望、わかります?」「わかる、わかるわよ、史緒里ちゃん、でもね、あの2人は別に愛し合って結婚したわけじゃないの」「だけど、私……祐市さんのお嫁さんになりたかった……」「ううっ、じおりぢゃん〜」美鶴は持っていたハンカチで涙を拭い、ついでにブビーと鼻をかんだ。「私が離婚するように言ってあげるわ、あの二人が別れたら、あなたが新しい花嫁さんよ!」「えー、でもそれって、なんか割り込むみたいで申し訳ないですぅ」「何を言っているの、先に割り込んだのはあの女の方よ! それにね、あんな生まれも素性もわからない女なんて。私は一度も嫁として認めたことはないわ!」みやびが祐市のボディガードだということは、美鶴には特に絶対知られないように配慮されている。ちょっと世間知らずで思慮の足りないこの義母に知られれば、警護計画に大きな穴が開き
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離婚準備 みやびの場合
ここは霞ヶ浦警備保障の訓練場、畳を敷き詰めた立派な道場である。そこに集められたのは道着を着た新人50名。指導員として彼らの前に立つのは、ピシッと凛々しく道着を着こなしたみやびである。 実はみやび、表向きは”霞ヶ浦警備保障の事務員”ということになっているが、実際には新人の育成と指導が主な業務である。 「強さとは"心技体"三つが揃ってこそ成り立つもの、いずれもおろそかにするべからず!」 指導前のこの薫陶を、最前列で聞いていたムキムキマッチョな若者が笑った。 「それは普通の肉体しか持たない奴の場合でしょ、見てくださいよ俺を、心も技も凌駕するこの肉体!」 確かに見事な筋肉だ。肩だけでなく胸にも太ももにもちっちゃいダンプ載せてんのかいみたいな、ムッキムキの筋肉。肩幅も鍛え抜かれて肩パット10枚くらい入れているみたいな盛り上がりっぷり。おまけに身長が高い、おそらく二メートルは超えているであろう大男である。 「人を守るなんて簡単簡単、弾除けになればいいんでしょ」 毎年一人くらいは、こうした力自慢の勘違い野郎が混ざっている。これを徹底的に”折る”のもみやびの仕事のうちだ。 「人を守るということは、肉盾になることとは違うわ。あなた、そのご自慢の筋肉で弾丸が防げると思う?」 「少なくとも貫通はしねえだろ」 「甘いわね」 みやびは彼を挑発するかのように、くいくいと手招きした。 「特別指導をしてあげるわ、かかってらっしゃい」 若造はまだみやびを侮っている。すけべったらしい目つきでみやびの体を
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離婚準備 祐市の場合とおまけで史緒里
笠間に離婚協議書を作らせた祐一は、足取りも軽く帰宅の途についた。玄関を開けると、出迎えてくれたのは妻ではなく、エプロン姿の史緒里だった。 「お帰りなさい、あなた、なんちゃって、きゃっ」 「ああ」 祐一はコートを脱ぎ、それを史緒里に手渡そうとした。しかし手を差し出すタイミングが合わず、コートは床に落ちてバサリと音を立てる。 祐一はみやびの出迎えを懐かしく思った。彼女ならばコートを取り落とすなんてミスは絶対にしない。 まるで祐市の帰宅がわかっていたかのように静かに玄関先にいて、コートを脱ぐよりも早く手を差し出してくれる。自分でコート掛けにかけるよりも手早く快適に。 しかし史緒里にはそうした気遣いがない。落ちたコートを拾ってさえくれない。 祐市は仕方なく、自分でコートを拾い上げた。 「そういえば、みやびは?」 史緒里はあざとく小首を傾げて答えた。 「お仕事だって出掛けて行ったけれど、でも、本当にお仕事だったのかしら?」 「どういう意味だ?」 「会社から呼び出しの電話を受けていたけど、相手は若い男の人だったみたい」 「若い男だと?」 ここで引っかからないのがさすがはクズだが常識のある男。 「まあ、会社なんだから若い男の社員ぐらいいるだろう」 「そうじゃない、そうじゃないのよ! なんていうの、すっごい親しげで〜」 「まあ、一緒に働いていればそうだろうな」 
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そして奥様は家を出る
パーティーの開催は一週間後。どうしても警備計画を対面で詰める必要があった。みやびは変装してカフェに向かう。みやびの変装は完璧だ。化粧で顔相を変え、さらに大きなメガネをかけて素顔の印象をぼやかす。背丈はフラットなシューズを履いたうえに常時膝を軽く曲げることによって5センチほど低く見せている。これに制服を着れば、奥手で地味な女子高生にしか見えない。待ち合わせをしていた慎也でさえ、その変装のあまりの完璧さに惑わされた。「え、だれ?」「しっ、私よ」「ああ、先輩……だから俺、この格好を指定されたんですね」慎也は銀縁の眼鏡をかけて、ちょっとチャラい大学生風。側から見ればチャラい家庭教師とウブな教え子がカフェでお勉強デートしているようにしか見えない。「じゃあ、早速始めましょうか」慎也はノートを広げる風を装って、今回のパーティー会場となる遠ヶ谷ホテルの見取り図を広げた。そのころ祐市は、笠間が運転するマイバッハの後部座席にて、イライラと爪を噛んでいた。「社長、ご機嫌斜めですか」ご機嫌斜めどころか垂直だ。ここ数日、みやびは「仕事が終わらないから」と言って帰ってこない。代わりに史緒里が出迎えてくれるが、エプロンをつけているくせに飯を作ってはくれない。勢い外食に出る羽目になるのだが、史緒里は高級で脂っこいものばかり食べたがる。祐市は、毎食バランスよく整えられたみやびの料理を懐かしく感じていた。だけどそれはみやびに未練があるみたいで不快だった。だから自分の気持ちに蓋をした。「疲れているんだ、離婚の話がなかなか進まなくてな」「奥様は、あの条件では不服だと?」「いや、話し合いすらできていない。仕事が忙しいらしくて、帰ってこないんだ」「奥様って、事務方のお仕事をなさっているんですよね、なのに泊まりがけでするようなお仕事があるんでしょうか」「さあ、帳簿の総ざらえとか監査対策とか? まあ、何かそういうものだろうよ」言った端から違和感を覚える祐市。「ん? あんな大きな会社の、末端部署の、末端社員に、そんなに仕事があるものか?」笠間は祐市を宥めようとヘラヘラ笑う。「まあまあ、末端社員だからこそ仕事を押し付けられるってこともあるんじゃないですかね」ちょうど通り道に、カフェの看板が見えた。「社長、コーヒーでも飲みませんか、イライラしてる時こ
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私、主婦に向いていなかったみたい
パーティー当日、祐市はこの上なく不機嫌であった。みやびは家を出た後完全に足取りが途絶え、その行方はようとして知れない。そんな状況にありながら、たいして意味も名目もないパーティーを開こうとしている母の無神経さに苛立っているのである。パーティー会場の片隅で、祐市は母美鶴に文句を言う。「俺の妻が行方不明なのに、不謹慎じゃないですかねえ」美鶴は素知らぬ顔で手にしたワイングラスを揺らしている。「もう妻じゃないでしょ」「まだ妻です」「だってあなた、離婚協議書も作ったそうじゃない」「それでもまだ、話し合いすらできていない!」「つまり離婚のための話し合いがしたくてあの女を探している、そういうことね」「まあ、それもあるけど……」「心配しなくても、あっちの方からこのパーティに来るでしょ」「これ、実際、なんのパーティーなんです?」「ふふっ、なんと! あなたの新しい婚約者のお披露目よ!」「だから、離婚もしてないのに……」その時、桃色のドレスを着た史緒里が軽やかな足取りで近寄ってきた。「ねー、ゆーいちー、どう? 綺麗でしょ」オフショルダーで肩と鎖骨を大胆に見せるドレスは、見た目清楚な史緒里にはとてもよく似合う。例えていうなら清純系アイドル、ちょっとえっちな格好をしてもエロすぎない可愛らしさ。だがその姿も、今日に限っては祐市の神経を逆撫でするものだった。「みやびが行方不明だっていうのに、どうして浮かれていられるんだ、君は!」「えー、みやびちゃんが行方不明なのって、私と関係ないじゃーん」「そんな冷たい話があるか!」あの日、火傷の手当てをして家に帰ると、みやびはもう居なかった。クズだが常識ある祐市は、もちろんVIP個室を借り切ってーとか、病院中の医者を呼びつけてーなんて非常識なことはしない。普通に救急外来に行って、普通に軟膏を処方されて、1時間ほど家を空けただけだ。なのにその1時間で、みやびは行方不明になってしまった。「みやびちゃんだっていい大人だし、それに自分で出て行ったんでしょー、私、あの人に出てけとか言ったわけじゃないし、関係なくない?」「そうだ、出てけって言ったのは俺の方だった……」この言葉に、美鶴は大喜びだ。「まあ! まあまあ! ビシッと言ってやったのね! さすが祐市、やればできる男!」しょんぼりとへこんでいる祐市の腕をグ
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初めて知る妻の真の姿
16;54 作戦は始まる。みやびは超小型インカムを耳の中に押し込み、掃除道具を積んだカートを押して、会場の入り口がよく見える階段の手すりを磨き始めた。まもなくインカムに駐車場に潜んでいた武装警備員部隊から報告が入る。「闖入者十五人、鈍器を所持、制圧完了!」「了解、こちらは入場者を目視にて確認中」霞ヶ浦家と日立家の顔合わせパーティーとあって、招待客の客層は広い。経済誌やテレビで見かける有名な大富豪から、そうした富豪に近づきたい起業家まで、実にさまざまな身分の者がパーティー会場に入ってゆく。みやびはすでに昨日のうちに全員の顔写真を入手して記憶してあるため、本来招待されていないはずの人間をここでチェックしているのだ。しかし、本日のパーティーの主催は、警備計画の大穴と呼ばれる美鶴だ。飛び入り参加を希望する者の入場を無計画に許可してしまうため、現場はたちまち混乱に陥った。「今入った生え際ハゲのおじさん、チェックして!」みやびが指示を出せば、給仕に扮した特殊警備員が慌てて駆け寄る。「そこの、青いスーツを着たてっぺんハゲのおじさんも!」ピアニストに扮した特殊警備員が、演奏をやめて駆け寄る。「そっち、そっちの完全ハゲのおじさんもよ!」宿泊中のカップルに扮していた特殊警備員が、状況的には不自然なのも忘れて駆け寄る。もう、しっちゃかめっちゃか。17:32 インカムに緊急通信が入る。「裏をかかれました! 正面から5名が突破! 全員銃器を所持っ!」来訪者のチェックに右往左往していた特殊警備員たちに緊張が走る。みやびは掃除道具の積み上がったカートを押し除け、インカム越しに鋭く指令を出した。「プランBに移行! 私も会場内に入る、人的被害を出さぬように最善を尽くせ!」箒とモップの間に隠してあったハンドガンを引き出し、迷うことなくパーティー会場へと飛び込む。40代のおばさんに変装していても、その動きは機敏で無駄のない熟練兵士のそれだ。みやびは迷うことなく寿子に駆け寄り、その身を庇うように傍に立った。「おばあさま」寿子は夫に先立たれてから当主代理として命の危険があるような状況に何度も身を置いたことのある女傑だ。少しも慌てず、静かな声で答える。「その声は、みやびだね」「申し訳ありません、敵の侵入を許してしまいました、しかし相手は素人です、まっ
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そして愛は目覚める……かもしれない
みやびは、この期に及んでなお、自分の正体を誤魔化そうと必死だった。「お兄さん、あんたみたいに若い人が他人のために命をかけちゃいけないよ、戻りなさい」当然、祐市は誤魔化されない。「何で他人とかいうんだよ、俺たちは一応夫婦だろ、みやびっ!」「だから、私はみやびじゃないってば!」そもそも状況がおかしい。半ギレで怒鳴るみやびは40代清掃のおばちゃんの変装のまま、遠ヶ谷ホテルの従業員用階段を駆け上る男に担がれている。祐市は銃を手にこれを追っているが、すでにスタミナ切れでフラフラしている。傍から見ると40代清掃のおばちゃんを攫って逃げる男と、それを追う疲れ切ったイケメンという謎の絵面。だが、目の前の40代清掃のおばちゃんの姿をした女が自分の妻だと確信している祐市は、あくまでも真剣だ。「みやび、みやびっ! 今……助けてやる!」祐市はみやびが事務方の人間なのだと信じきっている。今回ここにきているのは人数合わせに駆り出されたのだろうと。だから祐市は事務方で戦闘慣れしていないみやびを”助けてやらなくては”と思い込んでいる。一方のみやびは、屋上で別働部隊が合流することを知っているため、実は余裕がある。どのくらいの余裕かというと、祐市のかわいらしさに悶える余裕がある程度には……「ああっ、ほんと、役立たずっ(褒め言葉)」祐市は数学の才能があり、最年少で経営学を修めた天才だが、頭脳側に才能を全振りしたかのような運動音痴である。今も口ではかっこいいことを言っているが、階段を登るにもあっちによろよろこっちによろよろ、5段に一度は躓きそうになってみっともないことこの上ない。だが表情はキリリと、真剣そのもので。「大丈夫だ、みやび、俺がいる……怖がるな」「はい、怖がるないただきましたぁ! 恋愛小説に出てくる男が女を安心させるためのセリフトップスリー、怖がるな! いただきましたよぉ!」みやびの雄叫びにビクッと身をすくめた祐市は、つんのめって転ぶ。だがすぐに歯を食いしばって立ち上がる。「みやびっ!」ポンコツっぷりを見せつけられたみやびは、顔を両手で覆ってジタバタ身悶える。「あー、もー、ほんと、そういうとこ可愛い!」こんな言葉がある。――男を”可愛い”と感じたらそこが沼。つまりみやびは、祐市という沼にズッポリとハマっているのだ。「お前っ、みやびを放
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恋愛小説の定番、シャンデリア落下
オークション――それは魑魅魍魎有象無象陰謀怪習渦巻く金持ちたちの地獄の夜宴である。高額商品が揃い踏み、金持ちたちは湯水の感覚で金を使い、一夜にして国家予算に匹敵する金が平気で動く。当然そのおこぼれを狙って不埒なことを考える輩も会場に潜り込んでいるわけで。だからこそ、みやびは今回の仕事のために"保険"をかけていた。そのひとつ、真理恵は家のモニタールームでオークション会場のすべての情報をモニタリングしている。もちろん監視カメラの映像もハッキングして全てを掌握済みだ。「あー、いるわね、あんたのクソ旦那」菓子をバリバリ頬張りながら、手元のキーボードをかちゃかちゃと超高速で打ち鳴らす。「出品システムを完全掌握、あんたがブラッディルビーを目視で確認したら、出品情報を即抹消するわ。これで他の客は入札できなくなる」「さすが真理恵姉さん」「あとは貴理子姉さんの仕事ね」「はーい、こちらも作戦了解よー」貴理子の方は隠密行動中だ。ダイナマイトなボディにピッタリとしたボディウェアを着て、天井裏に天井裏に網目の様に張り巡らされた通気孔に身を潜めている。彼女は優秀な外科医であると同時に、優れた隠密術を身につけた現代の忍者ともいえる存在。それに武闘派なのだ。「オッケー、つまりシオちゃんの合図と同時に、ブラッディルビーを誰の目にも止まらないように掻っ攫っちゃえばいいってことね」「そういうこと。あとは水戸のおじさまが裏で主催者と交渉をなさればいいことだわ」「了解」貴理子は通風口の蓋を開き、誰にも気づかれないように素早く最後列のさらに後ろに飛び降りた。小さな声で鼻歌を歌う。「みーつめるキャッチャイ、らりるれロンリー、レロレロルラルローオル」「「姉さん、歌詞が適当すぎ」」ともかくこれで配置は完了した。あとはくだんの宝石が出た瞬間、その宝石がまるで出品されていなかったかのように観客の目の前から消せばいいだけだ。優秀な霞ヶ浦家の三姉妹が揃っているのだから、失敗するわけがない。みやびは隣に座る水戸に向かってそっと囁いた。「該当の品、確実に確保する作戦に切り替えました。本日のオークション後、主催者と直接交渉できるように手配いたします」「さすが、優秀だね」これでオークションを楽しむ余裕ができた。舞台上にはすでに5品目の品、ダイヤモンドをふんだ
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